狛犬瓦版

趣味について書くブログ

ゲームを楽しむということについて~ありがとう、白上フブキ~

※ この文章の序盤はかなり重苦しいです。ご気分の悪いときには途中で読むのを止めず、最後まで読み切るか中盤まで読み飛ばしてください。

 

 突然だが、私は失敗するのが嫌いだった。

 

 いつからかは分からないが、私は失敗を極端に忌避するようになってしまった。理由には色々心当たりはあるが、単純に挑戦するのが嫌になってしまった。勝てる勝負しかしない、負けそうなら何かと理由を付けて逃げる。そんな人間だった。

 

 私はゲームが大好きだったが、その考えはゲームにも波及してしまった。ゲームをプレイしているときに、「MISSON FAILED」や「任務失敗」の文字が出るのが嫌になってしまったのだ。

 

 楽して勝ちたい、と思った。

 

 「努力は裏切らない」という格言があるが、これは嘘だ。努力は平気な顔をして裏切る。人間が努力をするというのはつまるところリスクを負うということに相違ない。努力をすれば成功できる・勝てるとは限らない。もし失敗すれば、今まで懸けてきた時間を全て失ってしまう。そんなのは嫌だった。

 

 そして人間が成功するために必要なファクターは、努力以外に二つある。金と運だ。

 

 成人もしていない私は金が無かった。あとは運に賭けるしかなかった。私は運が悪い方だが、努力をしないということは大変に楽だ。負けても「運が悪かった」で済む。自分の実力に傷はつかない。そして何かをベットする必要もない。負けても失うものはなく、勝てば最高。そんな素晴らしいギャンブルだと思っていた。

 

 まあそんなわけで、私はコンシューマーゲームを捨ててソーシャルゲームを始めた。ソーシャルゲームは良い。運よくガチャでレアなキャラクターやアイテムをゲットできれば、それだけで自分は最強だ。高難易度と銘打たれたボスは運だけで手に入れたレアキャラがゴミクズのように粉砕してくれる。友達が持っていないレアキャラを引ければ、それだけでマウントが取れる。勉強で勝てないアイツにも、スポーツで勝てないアイツにも、運だけで勝てる。

 

 なんというか、私はソーシャルゲームと非常によろしくない付き合い方をしていた。

 

 まあ、そんなわけのわからない考え方もすぐに終わりが訪れる。どれほどプレイしたところで、結局ソーシャルゲーム無課金者が上位陣に勝つことはできない。課金の量が違うということは、つまり持っているレアキャラの数が違うということだ。

 

 私は同級生の課金者に絶対に勝てなかった。金は運より強かった。ついでに言えば、私より運が強いやつには勝てなかった。

 

 私はソーシャルゲームも捨てた。人と比べられないゲーム、コンシューマーゲームに出戻りしようと思った。でもダメだった。運だけで勝ち負けを決める環境にどっぷり漬かっていた私は、余計にゲームに敗北するのが嫌になった。コンシューマーゲームでの敗北は言い訳が出来なかった。敗北はすなわち自分の実力不足、ゲームへの理解不足、研究不足を意味する。今までのように、「ま、運が悪かったから仕方ねぇな」で誤魔化すことはできなかった。

 

 私は幼い頃からゲームが好きだった。幼稚園の帰り道、母に買い与えられた「ポケットモンスター ダイヤモンド」をプレイした日々。相棒のヒコザルとともにシンオウ地方を駆け巡るのはワクワクした。小学生になってからはドラゴンクエストⅨ。友達と通信して、宝の地図のボスを協力して倒した。

 

 あの頃の自分に戻りたくて、私は狂ったように小さい頃に買って貰ったゲームをプレイした。でもダメだった。思い出の中のゲームたちは、今の私にとって色褪せた写真の過ぎなかった。

 

 そのうち、私はゲームをすること自体止めてしまった。

 

 そんなある日のことである。ゲームを止めた私の暇つぶしは、もっぱらYoutubeだった。適当に動画を眺めていたとき、画面の右端にその動画はあった。

 

youtu.be

 

 これが私とVtuberの最初の出会いだった。

 

 エースコンバットシリーズが高難易度かつ非常に評価が高い作品であることは知っていた。「最近はVtuberもこんなゲームをプレイするんだなあ」と思い、完全な興味本位で動画を開いた。

 

 まず、その素晴らしいグラフィックに圧倒された。雲の形はドローンで撮ってきたのかと見紛うほどにリアリティに溢れ、空の青さはそれこそ突き抜けるようで。コクピット内の計器は実写と言われても違和感がないほどに作りこまれていた。火を吐くアフターバーナー、上昇と下降に合わせて動く尾翼、発射されるミサイルの噴煙と撃墜した敵機の爆炎。

 

 実際にプレイしていないにも関わらず、「間違いなく空を飛んでいる」と確信した。「凄まじいゲームに出会った」とも思った。

 

 同時にプレイしている白上フブキの腕前にも舌を巻いた。初見のゲームにも関わらず、戦闘機の操作が上手い。いや、操作の上達速度が高い。短い動画の中で、確実にその腕を上げている。

 

 私には勝てない。これほど上手くはなれない。このゲームを楽しめるのは、やはり選ばれた上位者だけなのか。

 

 この動画で彼女がプレイしていたのは「Long day」というステージだった。このステージ、とにかく難易度が高い。荒野と谷で対地目標を破壊するのが目的なのだが、それが難しい。

 まずこちらの弾の数と比べて敵がびっくりするくらいに多い。地面を埋め尽くすSAM対空機銃、そしてスクランブルしてくる敵戦闘機。レーダーは敵を示すフリップで真っ赤に染まっているし、制限時間もある。慣れればどうにかなるのだが、初見で突破するのは不可能に近い。

 そして対地攻撃という行為そのものが難しい。当たり前だがミサイルと機銃はまっすぐにしか飛ばないので、必然的に地上目標を狙う際には地面にダイブしていくor地面スレスレを水平に飛行することが求められる。目標を破壊したあとはすぐに機体を立て直さなければ、地面に熱いキスをするか岩肌にこんにちはするかして漏れなく爆散するハメになる。

 

 白上フブキもまた、このステージには苦戦していた。何回も何回も地面に突撃し、岩壁に突っ込み、機体が爆散していた。

 

 正直に言って、このときの私は少し胸がスッとした気持ちだった。上手い人間が失敗する光景を見て、歪んだ自己肯定感を満たしていた。どうせ投げ出すぞ、とも思っていた。

 

 だが動画が三本目に入り、そろそろ死亡回数が二桁にも乗ろうかというときになっても、彼女は楽しそうにプレイしていた。地面に掠って機体が大破し、悔しそうな声を出すことがあっても、その中心には「楽しい」という感情があった。

 

 結局彼女は動画内でそのステージをクリアすることは出来なかったが、それでも白上フブキは楽しそうだった。

 

 ひねくれものの私は「まあ企業タイアップだからな、あんまりなことも言えんだろ」と天邪鬼なことを考えたが、それはすぐに覆される。アーカイブを見ても、生放送を見ても、白上フブキはいつでも全力でゲームを楽しんでいた。何度敗北しても、その度に笑って再び挑んでいった。

 

 「ああ、別に失敗することも負けることも恥じゃないんだな」と私は思った。強いボスに出会って、色々頭を悩ませながら何度も挑戦した幼い頃の気持ちが、ぼんやりと戻ってきた。

 

 私は近所の電気屋に走った。PS4エースコンバット7を買うために。

 

 エースコンバット7は、素晴らしいゲームだった。噂に違わぬ操作難度の高さに、凄まじい変態機動でこちらのミサイルを避けるUAVにミハイ。私は当然のように地面に激突しまくり、避け損ねた敵機に正面衝突をかまし、後ろからミサイルを叩きこまれて爆散することを繰り返した。だけれど。

 

「楽しい」

 

 私の中の感情はそれだけだった。撃墜されて、再出撃することは苦ではなかった。美しい青空を飛行し、敵機とドッグファイトを繰り返し、子供のように目を輝かせながら戦闘機を駆った。そのとき私は間違いなくパイロット、主人公である"トリガー"だった。

 

 

 あの頃の純粋にゲームを楽しむ気持ちが、私の中に帰ってきた。

 

 失敗することはなんてことではなかった。壁を乗り越えるということは、辛いことばかりではなく楽しいことでもあった。

 

 ゲームとは、辛い現実から逃げるためのものではないことを、私はようやく思い出すことが出来た。

 

 ゲームは楽しむものだ。未知なる冒険に心を躍らせ、悲劇に涙を流し、世界を救う喜びを感じる。欠損を埋めるだけではなく、QOLを高めるもの。

 

 コンシューマーゲームだけでなく、ソーシャルゲームを楽しむ気持ちも戻ってきた。おかしなマウンティングに使うのではなく、ただ自分が楽しむためにプレイする。当たり前と言えば当たり前なのだが、すっかりとそのことを忘れていた。

 

 完全に終わった思想に取り憑かれていた私が立ち直るのはまた別の話なのだが、その第一歩となったのは間違いなくこの出会いだ。

 

 改めて、ありがとう。私は貴女のおかげで、ゲームを楽しむ気持ちを思い出せました。大好きだったゲームを正しく受け止めることが出来たおかげで、私は立ち直るための一歩を踏み出すことができました。

 そして、この素晴らしいVtuberの世界に出会わせてくれて、ありがとう。私は今、とても楽しい。辛いことや悲しいことは多いけど、それでも貴女たちが笑う姿、頑張る姿を得て、毎日立つことが出来る。

 

 ありがとう、白上フブキ。ゲームを楽しんでくれて、本当にありがとう。

 

 それとエースコンバット7、マジでいいゲームなのでオススメですよ。